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苦手をやってみる
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大手前大学 国際看護学部 教授・総長補佐大橋 一友

大手前大学 国際看護学部
教授・総長補佐
大橋 一友

大橋教授は大阪大学医学部を卒業後、20年近く生殖医学を専門に産婦人科医として臨床・研究に携わってきた。その後、大阪大学医学部保健学科の教授として、看護師・助産師の教育・研究指導に従事。また、大阪大学グローバルコラボレーション(GLOCOL)センター長に就任し、学生の海外交流支援に取り組んだ。現在は、大手前大学国際看護学部教授・総長補佐として、日本初の国際看護学部の運営をリードしている。また、大学での仕事と並行し、独立行政法人国際協力機構(JICA/ジャイカ)の国内研修や海外での保健医療支援に関わってきた。国際関連の仕事を多数経験してきた大橋教授だが、実は海外が大の苦手だという。座右の銘である「苦手をやってみる」を体現するようなキャリアを振り返っていただいた。


プロジェクトメンバー全員での草原パーティー(モンゴル・ウブルハンガイ県)真夏のモンゴルは夜10時まで明るく、この写真は9時ごろ

 

飛行機が嫌いで海外に行くことが苦手な大橋教授。国際関連の仕事をするようになったのは、産婦人科の先輩に頼まれたのがきっかけだという。大橋教授は、頼まれごとを引き受けることで様々な経験を積み、キャリアを築かれた。

 

私が医師を目指すと決めたのは、高校3年の2学期です。理由はあまり覚えていませんが、医学部志望の友人が多かった影響か、それまで工学部を志望していましたが、なんとなく進路を変更しました。

一浪して大阪大学医学部に入学し、産婦人科医の道を選びました。産婦人科医を選んだのは、尊敬するクラブの先輩に「病院で一番おめでとうと言う回数が多い科だから来ないか」と誘われたのがきっかけです。私は基本的に自分で何かしようと決めるよりも、他の人から誘われたり頼まれたりして、進路を選択することが多いです。しかし、そうしてチャレンジしたことは、全て人生の糧になっています。

産婦人科医以外の経験で特に良かった経験は、学生の海外交流支援やJICAでの保健医療支援、大手前大学国際看護学部の開設といった国際関連の仕事です。実は、家にいるのが一番好きというタイプのため、海外での生活は苦手です。しかし、他の人から声をかけられて挑戦しているうちに、結果的に国際関連のキャリアを積むことになりました。

きっかけは、大阪大学医学部保健学科長の時に、高校の先輩に頼まれて大阪大学GLOCOLセンター長に就任したことです。GLOCOLでは、大阪大学の全学部の学生を対象としたインターンシップやフィールドスタディといった海外交流の支援をしていました。

GLOCOLでは人類学や開発学などの各分野のスペシャリストが、学生たちを色々なところに連れていくので、まとめるのが大変でした。交流先のバングラデシュから「ゼネストが起きていてタクシーが使えないのでリキシャで空港に行く」という連絡が来るなど、多くのアクシデントがありましたね。そのため当時は「猛獣使い」と自称していました。また、海外交流プログラムのリスク管理がまだ標準化されていなかったので、科研を獲得して自分たちで海外渡航時のリスク管理の基礎を作りました。

JICAでの主な仕事は、周産期医療に携わる現地の医療従事者の人材育成でした。10年以上、アジアやアフリカの諸国の研修生と一緒に働きましたが、当初は英語が必要な研修でしたので、研修の対象者が限定されてしまっていました。また、英語が堪能な研修生は技術を学んだあと、母国外に出てしまうケースがみられました。そこで、医療技術は優れているけれど英語を話せない人も研修対象にしたいと考えました。

2013年から2022年までモンゴルで周産期の保健医療支援に携わりました。医師、助産師、医療エンジニアのチームに対して研修を行い、専門用語だけは英語を使いましたが、あとはモンゴル語通訳と非言語的方法でコミュニケーションを取りました。この研修では医療人材養成と分娩監視装置を現地で活用するための支援を行いました。プロジェクトの計画に当たり、母体の死亡率を医療レベルの指標として、現地での支援プランを考えました。日本の妊婦死亡率は10万人あたり2~3人ですが、モンゴルでは40~50人です。個人的な意見ですが、妊産婦死亡率が100を超える国々では衛生管理などの保健支援が必要です。一方、50以下になりますと保健支援に加えて医療支援が必要ですので、自分から「モンゴルで医療支援をしたい」と手を挙げました。私のキャリアにおいて立候補した仕事はこれだけです。

2019年に大阪大学を早期退職し、大手前大学に国際看護学部を開設しました。国際看護学部では、全ての学生が海外実習に行きます。近年の大学間の国際交流ではお互いに同数を受け入れるという了解事項があるため、一学年80名を送り出すにあたり、80名の学生を海外から受け入れなければいけません。海外の学生の受け入れは大変ですが、海外で学ぶことで学生たちは大きく成長します。異文化の医療現場に触れたことをきっかけに、「もっと勉強しなければ」と気付く学生が多く、帰国後は顔つきが全然違いますね。学生の送り出しには大阪大学での海外交流支援の経験が、受け入れには途上国の医療人材を養成した経験が活きています。

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