医ノ匠

  1. 医ノ匠 HOME
  2. インタビュー
  3. 株式会社SpinLife 代表取締役社長 中村 恒星 ※2025年9月19日現在
一期一会
一期一会

一期一会

株式会社SpinLife 代表取締役社長中村 恒星 ※2025年9月19日現在

株式会社SpinLife
代表取締役社長
中村 恒星 ※2025年9月19日現在

医師であり起業家としても活躍する中村恒星さん。難病の患者さんとの出会いをきっかけに、食事の痛みを和らげる「世界一やさしいチョコレート andew」を生み出しました。薬学から医学、そして起業へ——その歩みには数々の「一期一会」の出会いがありました。患者さんの声に耳を傾け、社会に新しい価値を届けるまでの道のりを伺いました。


中村先生は、最初から医師を目指していたわけではない。中学生の時にテレビで見たエイズ孤児の番組がきっかけで創薬の道を選択。薬学部で研究するなかで、実際に患者と接することが大切だと感じ、医師を志した。世界一やさしいチョコレート「andew」が誕生するまでのエピソードを伺った。

もともと、医師志望ではなかったんです。生まれつき心臓の難病であるファロー四徴症を患い、子どもの頃から医師と接する機会は多かったものの「医師になりたい」と思ったことは全くありませんでしたね。中学生の時にたまたまテレビでエイズ孤児の番組を観て、「完全には治らない病気は大変だな」と思いました。幸い私は、手術のおかげでそれなりに元気に生きています。治療法がなく苦しんでいる人たちのために、「薬を作りたい」と思い、創薬の道を選びました。

富山大学薬学部に進学し、脊髄損傷の治療薬開発に携わりましたが、朝から晩まで実験を続けるうちに、誰のための研究なのか分からなくなってしまったんです。それは、脊髄損傷の患者さんたちがどのような人で、何を望んでいるのかを上手く想像できなかったのが原因でした。そこで「ジャパンハート」に参加して、ミャンマーへ患者さんのケアを学びに行きました。実際の治療に携わることにより、患者さんの実際の姿を知った上で、研究をすることの大切さを学びました。患者さんに関わることがモチベーションに繋がり、30代・40代になった時の選択肢も広がるのではないかと思い、医学部進学を決意。その後、北海道大学医学部に編入しました。

医学部に編入後、少しでも早く患者さんと関わりたいと思い、北大の先生から表皮水疱症の患者さんを紹介していただきました。表皮水疱症は、皮膚をつなぐタンパク質が生まれつき欠損しているため、皮膚がはがれて水ぶくれや潰瘍ができてしまう難病です。患者さんとカフェでお会いして、率直に「大変な病気だな」と感じました。肌には水ぶくれやただれができていて、手の指が癒着していました。表皮水疱症の患者さんと接するのは初めてだったので、患者さんがカウンターでコーヒーを受け取る時に「手伝った方が良いかどうかも分からないな」と戸惑ったのを覚えています。その後、患者会の運営支援をするなかで、患者さんたちの食事の困難さを知りました。表皮水疱症の患者さんは、少しの刺激で口の中の粘膜が剥がれてしまうので、食事の度に大きな痛みが生じ、栄養摂取もままならない方が多いんです。

そこで、患者さんが痛みを感じずに美味しく食べられて、さらに栄養を十分摂取できる食品を作ることにしました。チョコレートを選んだのは、食感がなめらかである、栄養価の高い食材を混ぜやすい、保存がしやすい、といった点が適していると感じたからです。それに、患者さんの気持ちの面でも、チョコレートが良いと思いました。チョコレートって他の食べ物よりもポジティブなイメージがあると思うんです。上手く展開すれば、食事が苦痛で困っている患者さんが喜んでくれそうだと感じましたね。自宅で試作を繰り返しましたが、素人なので上手くいかず、札幌のチョコレート専門店に協力をお願いしました。その社長さんも新たなチョコレートの在り方を模索していたタイミングで、「面白い」と思ってくださったようです。試作の開発を無償でお手伝いいただいたことは今でもとても感謝しております。そうして完成したのが「andew」です。患者会で試食してもらったところ、5歳くらいの子どもが「おいしい」って言ってくれて、手ごたえを感じました。子どもは忖度しないので、「ちゃんとおいしいものができたんだ」と感じ、嬉しかったのを覚えています。

コンテンツは会員限定です。
続きをご覧になるには以下よりログインするか、会員登録をしてください。